若手宮大工の養成をしていると、いろんな事を勉強させて頂けます。うちに来る子っていうのは、もともとは学生なわけですから、先生と生徒と親という限られた世界で生きているんですね。まだ世の中で戦っていけるような目をしていないんです。一方、うちに1年いると目が違います。狩りをするような目になっているんですね。それだけ社会でやっていくと覚悟を決めた人間と温室で育った人間とは全然違うわけです。1年生は、はじめの頃、戸惑いを見せながらも「現実」っていうのを見せられて、徐々に成長していくんですね。当然、拒否・拒絶という反応はあります。これがある子が弱いっていう訳ではなくて、人間は環境が変っても現状維持しようとしますから葛藤っていうのがあるんですね。
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挨拶一つから生活から食事から、、、すべてが違います。特にうちなんてのは宮大工になるわけですから、一般的な社会にでるのとは違う厳しさがあります。けどもね、毎日毎日同じことをしているといつの間にか慣れてしまうんですね。人間の対応能力っていうのは、本当に驚かされます。
1年くらいするとね、道具も使えるようになっていますから段々楽しくなってくるんですね。けどね、楽しいってことは、油断です。多くの人は、このままさらに1年過ごしますから、なんとなく作業ができる子のまま微妙に成長しかしないんですね。ここで大切なのは、初心に戻る事。そうです、入塾した時のインパクトと同じくらいのプレッシャーがないと大きくは成長しません。そこで成長させるために必要なことは、その子の能力では頑張っても出来るかできないかわからないくらいの舞台を用意してあげる事です。
山門の修復プロジェクトがあるんですね。それの棟梁は流石に2年目の子は無理です。けどね、副棟梁ならワンチャン成功すると思います。本人からしたら、凄いプレッシャーです。これであってるのかな?間違っていたらどうしよう?>?不安でしかたがないです。さらに下の子の面倒も見ないといけませんから時間もない。さらにですよ、道具の準備もしないといけないし、失敗できなから練習もしないといけない。最後はね、棟梁が責任とるんですけどね、本人には当然そんなことは言いません。もしも失敗しても大丈夫なように段取りするのが棟梁の仕事っていうものです。
我々職人っていうのは、建物を作るだけが目的がではありません。この文化を継承できる人材を育てる事も重要な役割の一つになります。人を育てるというのは、簡単な事でありません。学校みたいに失敗させないように誘導するのは何の成長もありません。失敗したら終わりなんです。そういう状況で挑めるのか?やりきったのか?そこに成長があるんです。
どうですかね?そんなプレッシャーを受けながらもやり切ったらなら、その建物はすごく思い出深くありませんか?建物をみるだけでは伝わらないストーリーってのがあるんです。副棟梁やった子のストーリーもあるし、その下で頑張った子のストーリーもあるんです。そんな人が成長していく姿をみて喜んでくれているお客様のストーリーもあります。僕たちはね、そういうものを作っているんです。
僕はね、本当にいろんな経験をさせて頂いたので今があります。それを今の子に同じことをしているだけです。今は本当にチャンスを与えてくれない時代になりましたよね。けどね、こうやってチャンスで成長してきた子達は、自分たちがそういう立場になった時に、同じようにチャンスを与えてあげるんだと思います。こうやって技術ってのは受け継がれていくんですね。
言葉とか態度とかコミュニケーションとか、どうでもいいと思います。一番大切なのは、絶対に見捨てない事。そして信じる事。これが出来ていれば相手にも伝わっているかと思います。なんか小手先で見せようとしても最終的には信頼関係はないんだと思うんですね。お互いの信じる気持ちがつながったなら、それが本気ってのはうむんじゃないですかね。わからんけど。